電気を“ためる”時代へ
かつて電気は「発電されたらすぐ使うもの」だった。だけど近年、状況が劇的に変わってきた。太陽光や風力など再生可能エネルギーの導入が進み、「発電と需要」の時間ズレが拡大。
さらに、電力の需要ピーク、需給の乱高下、気候変動による異常気象や自然災害リスクなど、電力系統を取り巻く環境は不安定さを増している。
こうした背景のもと、電気を「貯めておく」――つまり「蓄電」の重要性が急にクローズアップされている。
特に、電力系統に直接つながる大規模蓄電池、すなわち 「系統用蓄電池」 が、今、世界中で注目を集めている。
本記事にて、なぜ「今」この系統用蓄電池が脚光を浴びているのか、その理由をわかりやすく、かつ掘り下げて解説する。
系統用蓄電池とは何か

まず「系統用蓄電池」が何を指すのか整理しよう。
- 系統用蓄電池は、小さな家庭用バッテリーではなく、電力系統(グリッド)に直接接続される大規模な蓄電システム。
- 通常、蓄電池は発電所に併設されたり、需要側の設備へのバックアップ用途で使われたりしていた。しかし近年、「蓄電池単独で送配電網に放電できる」よう制度が見直されたことで、系統用蓄電池そのものが“発電所と同等の存在価値”を持つようになった。
- 系統用蓄電池は、電力を蓄えておき、需要が高まる時間帯や再エネの出力が低くなる時間帯に放電する。これにより、電力の供給と需要のバランスをとる――いわば“電気の貯蔵庫”かつ“保険”のような存在。
こうした性質により、系統用蓄電池は単なる「蓄電装置」を超えて、「電力インフラの要(かなめ)」として期待されている。

注目の背景①:再エネの大量導入と“変動”という宿命
再エネの急拡大 — 変動する電力
近年、世界中で再生可能エネルギー(太陽光・風力など)の導入が加速している。再エネはクリーンで持続可能だが、一方で「発電量が天候や時間帯に左右される」という弱点を抱える。
晴天時の日中は大量の太陽光発電が得られても、夜になると発電はゼロ。風力も風がなければ発電できない。こうした「発電の不安定さ」は、電力の需給バランスを崩し、系統全体の不安定さにつながる。
変動を補う“調整弁”としての蓄電池
ここに、系統用蓄電池の意義が浮かび上がる。再エネによって生まれた余剰電力を蓄えておき、必要なタイミングで放電する――これにより、再エネの“変動”という宿命を緩和できるからだ。
つまり、系統用蓄電池は単に「電気を貯める」だけではなく、「再エネと既存電源のギャップをつなぐブリッジ」の役割を果たす。 この仕組みにより、再エネ大量導入によるリスクを最小化しつつ、クリーン電力への拡大を実現できる。
再エネの拡大と、それに伴う電力の不安定化──この問題を解決する“救世主”的存在が、系統用蓄電池なのである。
注目の背景②:電力の安定供給と「系統の安全弁」としての役割
需要ピークや突発的な負荷の変動
電力需要は時間帯や季節、天候などにより大きく動く。特に夏の猛暑や冬の寒波、あるいは予想外の需要急増といった事態では、電力の供給能力が追いつかず、停電や需給逼迫のリスクが高まる。
こうしたリスクを抑えるためには、余裕を持った供給力やバックアップ電源の確保が必要だ。しかし、従来の火力発電所や水力発電所だけでは対応が難しいこともある。
安定した電力供給を支える存在として系統用蓄電池がフォーカスされている
系統用蓄電池は、まさにこうした不安定・不確実な状況に対する“安全弁”となる。
- 余剰電力を蓄えておき、需要が高まるときに放電 → 需給バランスを維持。
- 瞬発的な需要急増や負荷変動に対して、迅速に電力を供給。
- 災害や停電といった非常時に、一時的なバックアップ電源として機能。
特に災害大国の日本では、停電リスクへの耐性という観点からも大きな注目を集めている。こうした“安全インフラ”としての価値が、系統用蓄電池の重要性を高めている。
注目の背景③:経済性の改善 — コスト低下と市場メカニズムの成熟

技術進化とコスト低下
かつては「蓄電池=高価でコスト効率が悪い」とされていた。しかし、技術革新が進み、バッテリーの性能向上とコスト低減が進んでいる。これにより、導入コストが大きく下がり、採算性が改善。
加えて、バッテリーの寿命や安全性、運用効率も向上。これにより、単なる“実験的技術”ではなく、“実運用可能なインフラ”として受け入れられつつある。
電力市場の成熟と収益化モデル
系統用蓄電池のビジネスモデルも整備されつつある。具体的には以下のような収益手段がある。
- 卸電力市場での「アービトラージ」:
電力価格が安いときに蓄電 ⇒ 高いときに放電 → 差益を狙う。 - 需要/供給調整市場や容量市場への参入:
系統安定化サービスとして報酬を得る。 - 電力のピークカット・ピークシフトによるコスト削減:
施設運営者や電力会社にとってもメリット。
こうした収益・コスト削減の両面でのメリットが見えやすくなったことで、「系統用蓄電池=投資対象」「ビジネスになる」という認識が広がってきている。
加えて、世界全体で系統用蓄電池の設置と導入が急速に伸びており、業界全体としての「スケールメリット」も期待されている。
注目の背景④:脱炭素/カーボンニュートラルの社会的要請
再エネ拡大と温室効果ガス削減
2050年のカーボンニュートラル実現を目指す国々が増えるなか、再生可能エネルギーの拡大は避けて通れない道。しかし、再エネだけを増やしても「供給の不安定性」は解消されない。
ここで、系統用蓄電池は、再エネの導入を支える“縁の下の力持ち”として機能する。安定した電力供給を可能としつつ、化石燃料に頼らない電力システムを実現できる。これにより、脱炭素社会への現実味が一気に高まる。
九州地区で盛んなFIP転や、既存の発電所のFIT制度が満了に迎えてくるにつれて太陽光+蓄電池のハイブリッド型増えてきます。
社会インフラとしての再定義
系統用蓄電池は単なる“便利な設備”ではなく、「将来の電力インフラ」として再定義されつつある。供給の安定、災害対応、再エネ活用、経済性――これら複数の要請を同時に満たすため、蓄電池は社会インフラの一翼を担う存在となってきた。
こうした社会的要請とともに、技術・経済・制度がそろってきたことで、「今」がまさに系統用蓄電池にとって最適なタイミングなのだ。
注目の背景⑤:制度・法改正、政策支援とビジネスチャンスの拡大

法規制の見直し
多くの国で、電力市場や電力系統をめぐる法制度が再編・見直しされている。特に注目されるのが、「蓄電池単独で送配電網に接続・放電できるようにする制度改正」。
これによって、蓄電池はもはや“補助的設備”ではなく、“主戦力”として電力供給に関わることが可能になった。日本でもこうした動きがあり、蓄電池ビジネスへの見通しが開けてきている。
政策支援と市場環境の整備
脱炭素政策、再エネ促進政策、電力市場の自由化──こうした政策潮流が、系統用蓄電池の普及を後押ししている。また、政策だけでなく、「蓄電池に対する補助金」「再エネと蓄電池のセット導入促進」といった具体的な支援も広がりつつある。
さらに、電力市場そのものも、従来の「発電量で勝負する」モデルから、「電力の需給バランス」「供給の柔軟性」「安定性」を評価する方向へと変わってきており、系統用蓄電池には好条件が揃っている。
このように、制度・政策・市場という“外部環境”が整ってきたことも、注目が集まる大きな理由だ。

ただし課題も:課題・リスクと今後の展望
とはいえ、系統用蓄電池の導入にはまだ課題やリスクがある。今後の普及・拡大には、それらを乗り越える必要がある。主なものは以下の通りだ。
- コストと初期投資の大きさ:大規模蓄電池は導入コストが高く、設置場所や送電網接続の工事も必要。
系統用蓄電池2メガ8メガと言われる物件で、連系時期が早いものだと7億円を超える場合がある。 - 制度・市場の未成熟さ:特に日本では、まだ制度や市場メカニズム(需給調整市場、容量市場、送配電料金の構造など)が発展途上。そのため、収益性が読めない。
- サプライチェーンと資源の確保:蓄電池の原材料や部品の安定供給、リサイクル/廃棄処理の整備が不可欠。
- 技術的・安全性の検証:大容量バッテリーの運用、寿命、火災リスクなどへの対策が重要。
それでも、多くの専門家や関係者が「これらの課題はクリアできる/すでに取り組みが始まっている」「コスト低下や技術進化で克服可能」と考えており、むしろ“成長余地のある市場”と見ている。
今後は、制度整備・技術革新・実証プロジェクト・政策支援の連携が進むことで、系統用蓄電池はさらに普及し、電力インフラの「当たり前」になる可能性がある。
系統用蓄電池が拓く“新しい電力社会”

なぜ今、系統用蓄電池に注目が集まるのか――それは、再エネの拡大、電力需給の不安定化、脱炭素社会の実現、制度改革、経済性の改善など、複数の要因が同時に作用しているからだ。
系統用蓄電池は、ただの“蓄電設備”ではない。再エネを支える“バックボーン”、電力の安定供給を守る“セーフティネット”、そして将来の電力インフラの“基盤”だ。
もちろん課題はある。だが、技術進化、政策支援、社会的要請──すべてが「蓄電池時代」を後押しする。今このタイミングで注目が集まるのは、偶然ではない。
これからの社会では、「発電する」だけでなく、「貯める」「コントロールする」電力インフラが主役になる。系統用蓄電池は、その“電力の貯蔵箱”として、次世代の社会を支える大きな柱となるだろう。
電力の「安定」と「持続可能性」を両立させる鍵。系統用蓄電池。今こそ、その可能性に注目すべきだ。