― 需給調整市場の「募集量・供給・価格」から現在地を整理する ―
最近、系統用蓄電池について「もう市場が飽和しているのでは」という話を聞くことがあります。
確かに、需給調整市場ではいくつか大きな変化が起きています。
2026年9月1日から一部商品の上限価格は15円から10円/ΔkW・30分へ下がりました。さらに次の段階として7.21円も示されています。
加えて募集量の考え方が「3σ相当」から「1σ相当」へ変更され、九州では2026年8月の一次オフライン平均約定価格が4.9円まで下がったという分析もあります。
数字だけを見ると、「蓄電池が増えすぎて市場が小さくなった」と感じます。
ただ、元記事のデータを整理してみると、もう少し違った姿が見えてきます。
1.募集量は本当に3分の1になった?
まず分かりにくいのが「3σから1σになった」という話です。
単純に考えると、「3から1になったので募集量も3分の1」と思ってしまいます。
しかし実際にはそう単純ではありません。
電力系統では、毎日の需要変動に備える分だけでなく、大きな発電設備が突然停止した場合などに備える分も必要です。
今回減ったのは、主に日々の変動に備える部分です。
独自集計では、2026年度の必要量は前年の約0.55倍、実際に市場へ出た募集量は約0.62倍でした。
一方、一次から三次①までをまとめた「複合商品」は約0.97倍で、ほぼ前年並みとされています。
つまり、蓄電池が参加する市場全体が3分の1になったわけではありません。
特に大きく減ったのは、蓄電池の参加比率が高い一次オフラインなどの比較的小さな枠です。

2.蓄電池の「席」はどのくらい埋まっている?
市場を「部屋」、募集量を「席」と考えると少し分かりやすくなります。
蓄電池が参加する席には、大きく二つあります。
一つは一次オフラインです。主に蓄電池が参加している約500MW規模の比較的小さな市場です。
もう一つは、一次オンラインや複合市場です。こちらでは蓄電池だけではなく、火力発電や揚水発電などとも競争します。
2026年8月時点の集計では、一次オフラインは全国で約53%が不足していました。
簡単にいえば、まだ半分程度は埋まっていないという見方です。
ただし地域差があります。
東京ではかなり埋まり始めている一方、関西、中国、北海道などでは、まだ空きが比較的大きいと分析されています。
「日本全国の蓄電池市場が一斉に満席になった」という状況ではないようです。

3.接続申込3,500万kWが全部稼働するわけではない
もう一つ「飽和」を連想させる数字が、系統用蓄電池の接続申込です。
元記事では、2026年3月末の接続申込を約3,527万kWとしています。
かなり大きな数字です。
しかし、2030年度に事業者自身が供給計画へ載せている蓄電池は約631万kWとされています。
接続を申し込んだからといって、すべてが実際の発電所になるわけではありません。
土地の確保、工事費負担金、系統連系工事、設備調達、資金調達など、運転開始までにはいくつもの段階があります。
そのため、接続申込容量だけを見て将来の市場参加量を判断するのは少し注意が必要です。

4.価格は制度より先に下がり始めている
今回の動きで特に注目したいのは価格です。
2026年8月の集計では、九州の一次オフライン平均約定価格は4.9円/ΔkW・30分まで低下しています。
この時点では、まだ上限価格は15円でした。
つまり、上限価格を10円へ変更したから4.9円になったわけではありません。
蓄電池の応札が増え、事業者同士の競争によって市場価格が形成され始めていたと考えることができます。
ただし、東京や東北では九州より高い価格が続いていました。
ここでも「全国一律」ではなく、エリアごとに市場環境が違います。

5.価格はどこまで下がる?
では、競争が進めば価格はどこまでも下がるのでしょうか。
蓄電池には、需給調整市場以外の選択肢があります。
例えばJEPXでは、価格の安い時間に電気を充電し、高い時間に放電することで収益を得ることができます。
そのため、JEPXで得られる収益を捨ててまで、需給調整市場へ極端に安い価格で入札するとは限りません。
この「ほかの市場で得られる収益」を基に計算すると、夕方の時間帯では6~8円程度、1日全体で均すと1円台になると分析しています。
つまり、蓄電池の価格には一本の「底値」があるのではなく、時間帯によって変わるという考え方です。
夕方と深夜では、蓄電池にとって同じ1kWでも価値が違います。
6.これからは「どこにあるか」だけでは決まらない
今後の系統用蓄電池を見るときは、設備容量や高圧・特別高圧だけで判断するのは難しくなりそうです。
特に確認したいのは、次の4点です。
- どのエリアにあるのか
- 何年に連系するのか
- 固定収入となる契約があるのか
- 一次オフラインだけでなく、オンライン・複合商品にも参加できるのか
さらに、収益源も一つではありません。
需給調整市場、JEPX、容量市場、長期脱炭素電源オークション、トーリング契約などを組み合わせる考え方が重要になっています。
「蓄電池を設置すれば、需給調整市場で高値で売れる」という単純な事業ではなく、運用方法によって差が出る段階へ移ってきたとも言えそうです。
7.まとめ
現在の状況を見て、「系統用蓄電池市場全体がすでに飽和した」と言い切るのは少し早いと思います。
確かに、蓄電池が中心となっている小さな市場では競争が進み、価格も下がり始めています。
一方、大きな複合市場はほぼ前年並みの規模があり、地域によって蓄電池の入り方にもかなり差があります。
これから重要になるのは、「蓄電池をどこにつくるか」だけではありません。
どの市場へ、どの時間帯に、どの価格で出すのか。さらに複数の収益源をどう組み合わせるのか。
小さな席は埋まり始めていますが、市場全体にはまだ余地があります。
系統用蓄電池も、これからは「案件を持つこと」から「どう運用するか」へ、競争のポイントが少しずつ変わっていくのかもしれません。
※本記事に記載した市場価格・募集量・不足率などの一部数値は、2026年8月時点の独自集計・分析を基に整理したものであり、将来の収益や市場価格を保証するものではありません。
