なぜ電力の話は、需要家にとって分かりにくいのか
電気料金の見直し、再エネ導入、脱炭素対応、BCP対策。企業や施設の立場で電力を考え始めると、必ずこうした疑問にぶつかります。
- 電力会社を変えると、誰が電気を供給しているのか
- 太陽光を入れると、電力会社は不要になるのか
- 蓄電池を入れると、電気は誰から買うことになるのか
- そもそも電力業界には、どんな事業者が関わっているのか
多くの場合、制度や事業者の話が先に来て、「自分(需要家)にどう影響するか」が後回しになります。
この記事では、電力業界を「売る側」ではなく、電気を使い、選び、契約する需要家目線で、
- 電力業界のプレイヤー
- それぞれの役割
- 電気の流れ
- なぜ制度が分かれているのか
を一度、整理します。
この記事で分かること
この記事を読み終える頃には、
- 電力会社を変えると「何が変わって、何が変わらないのか」
- 電気料金や再エネ比率が、どのプレイヤーの影響を受けているのか
- 需要家として「選べる部分」と「選べない前提」はどこなのか
が、一枚の地図として整理されている状態を目指します。
電力業界は、需要家から見ると「3つの役割」でできている

まず押さえておきたいのは、
電力業界は次の3つの役割に分かれているという点です。
| 役割 | 需要家から見た意味 |
|---|---|
| 発電 | 電気をつくる人 |
| 送配電 | 電気を運ぶ人 |
| 小売 | 需要家と契約する人 |
需要家が普段やり取りしているのは、基本的に「小売」だけです。ただし、料金や安定性、再エネ比率は、裏側にいる発電・送配電の構造に強く影響されます。
なぜ発電・小売・送配電で扱いが違うのか(需要家目線)
電力業界では、発電・小売・送配電でできること・選べることが違います。それは、制度の名前が違うからではなく、需要家や社会に与える影響の大きさが違うため、管理の仕方が異なるからです。
需要家から見た整理
| 分野 | 需要家から見た位置づけ |
|---|---|
| 発電 | 多数の発電事業者がいても問題ない |
| 小売 | 電力料金の比較・選択をしたい |
| 送配電 | そもそも選ぶことができない |
なぜそうなっているの?
| 分野 | 管理方法 | 数のイメージ |
|---|---|---|
| 発電 | 届出 | 数千〜数万 |
| 小売 | 登録 | 数百 |
| 送配電 | 許可 | 数十以下 |
発電:需要家が直接関わることがない
- 電気を「つくる」段階
- 直接、需要家と契約しない
- 問題が起きても影響は限定的
多数なプレイヤーがいても問題なく、発電事業者の数を把握できるレベルで管理すれば足りる分野です。
小売:需要家にサービス提供する存在
- 需要家と直接契約する
- 料金トラブルや供給責任が発生する
- 価格変動リスクを引き受ける
競争は必要ですが、無制限には増やさない設計です。 そのため「登録制」で小売事業者を管理しています。
送配電:そもそも選ぶことが出来ない仕組み
- 電気の安定供給そのもの
- 停電や事故の影響が極めて大きい
- 二重投資や競争が非効率
競争させない前提で成り立っており、ごく限られた事業者だけが担う「許可制」です。
この前提を知っていると、
- なぜ電力会社(小売)は選べるのか
- なぜ送配電会社は選べないのか
- なぜ「安いだけ」で選ぶのが危ういのか
が、自然に理解できます。
制度を覚える必要はありません。「選べる部分」と「選べない部分」が最初から決まっている
と理解すれば十分です。
発電側のプレイヤー:電気の「中身」を決める人たち

発電事業者
役割:太陽光・風力・火力・水力などで電気をつくる。
電気の仕入先:なし(自ら発電)
電気の販売先:
- 卸電力市場
- 卸電気事業者
- 小売電気事業者
- 自家消費(自社利用)
制度:一定規模以上で「発電事業の届出」。
需要家にとって重要なのは、発電事業者は基本的に直接の契約相手ではないという点です。
発電オーナーと発電事業者は分かれているのか
結論
制度上は分かれていないが、実務上はよく分かれている。ここは誤解が多いポイントです。
発電オーナー(実務上の概念)
- 発電設備の所有者
- 投資主体
- ファンド、SPC、事業会社など
必ずしも日々の運転や市場対応は行いません。
発電事業者(制度上の主体)
- 発電事業の届出を行う
- 系統と接続する
- 出力管理・保安・市場対応の責任を負う
需要家にとっての重要なのは「どこが設備を持っているか」よりも、誰が安定して電気を供給する責任を負っているかです。
発電オーナーと発電事業者に電源規模の住み分けはあるのか?
結論
① 制度上:オーナー/事業者の区分はない
② 実務上:電源規模が大きいほど「所有と運営」が分離しやすい
| 電源規模 | よくある構造(実務表現) |
|---|---|
| 小規模(数十〜数百kW) | 自己所有・自己運営型 |
| 中規模(数百kW〜数MW) | 所有・運営一体型/O&M分離型 |
| 大規模(数MW以上) | オーナー・オペレーター分離型 |
※ 実務では「オーナー・オペレーター分離型」などと呼ばれることもありますが、
需要家目線では「設備を持つ人」と「発電事業の責任を負う人が分かれている」と理解すれば十分です。
需要家への影響
大規模電源ほど裏側の関係者は多くなり、契約や価格形成はより市場連動型になります。
卸電気事業者・卸供給事業者
役割:発電された電気をまとめて流通させる。
電気の仕入先
- 発電事業者
- 卸電力市場
電気の販売先
- 小売電気事業者
- 他の卸事業者
需要家から見ると、卸は見えませんが、電気料金の変動リスクを左右する存在です。
送配電側のプレイヤー:需要家が「選べない」が必ず使う存在

一般送配電事業者
役割:送電線・配電線を維持し、電気を運ぶ。
制度:許可制(新規参入はほぼ不可)
主な事業者(地域ごと)
- 北海道電力ネットワーク
- 東北電力ネットワーク
- 東京電力パワーグリッド
- 中部電力パワーグリッド
- 北陸電力送配電
- 関西電力送配電
- 中国電力ネットワーク
- 四国電力送配電
- 九州電力送配電
- 沖縄電力
電力会社を変えても、送配電会社は変わらなく停電対応や系統品質は、ここが担っている
特定送配電事業者
役割:工業団地や再開発地区など、特定エリア内で電気を各建物に届けるための配線・変電設備を管理する事業者
制度:許可制(例外的)
一般送配電事業者が「地域全体の電気設備」を管理しているのに対し、特定送配電事業者は、工業団地や再開発地区など、限られた敷地内の電気設備だけをまとめて管理しています。
小売側のプレイヤー:需要家の契約相手
一般小売電気事業者(新電力を含む)
役割:需要家と直接契約し、料金を請求する。
電気の仕入先
- 卸電力市場
- 卸電気事業者
- 発電事業者
電気の販売先:需要家(家庭・企業・施設)
制度:登録制
小売電気事業者は、なぜ自然に数が絞られていくのか(需要家目線)
電力小売は自由化されていますが、誰でも参入でき、無制限に増え続ける仕組みではありません。実際には、小売電気事業者の数は一定数まで増えたあと、数百社規模で落ち着く構造になっています。
これは、制度で強く制限しているというよりも、事業として成立する条件が厳しいため、自然に絞られていくからです。
その理由は主に3つあります。
理由①電気を安定して調達・管理する負担が重い
小売電気事業者は、
- 需要を予測し
- 必要な電気を事前に確保し
- 需要と供給のズレを自ら引き受ける
必要があります。
価格変動や需給逼迫の影響を直接受けるため、一定の調達力・資金力・運営体制がなければ継続できません。
理由②撤退や倒産が起きること自体が制度上想定されている
小売は「登録制」であり、参入だけでなく撤退も前提にした制度です。
市場価格の高騰や調達リスクの増大といった局面では、事業継続が難しくなり、撤退する事業者も出てきます。これは制度の失敗ではなく、無理な事業者が残り続けないための設計でもあります。
理由③需要家保護の観点から、数が増えすぎないようになっている
小売は、需要家と直接契約、料金請求や供給責任を負います。
そのため、
- 事業者が多すぎる
- 体力の弱い事業者が乱立する
状態は、かえって需要家リスクを高めます。結果として、競争はさせるが、数は自然に抑えられる構造になっています。
需要家への示唆
こうした構造を踏まえると、需要家が小売電気事業者を選ぶ際は、「安いかどうか」だけでなく、
- 継続できる事業体制か
- 電気を安定して調達できているか
- リスクをどこまで引き受けられるか
といった点を見ることが重要になります。
系統用蓄電池ビジネスとアグリゲーターはどこに位置づくのか

系統用蓄電池事業者
役割:電気を「ためて、時間をずらして使う」。
制度上の扱い
- 規模により発電事業者扱い
- 卸市場・需給調整市場などで取引
蓄電池は、料金の安定性や再エネ活用を間接的に支える存在です。
アグリゲーター(VPP事業者)
アグリゲーターとは、需要家側にある複数の設備をまとめて制御し、電力市場や電力系統と「一つの電源のように」つなぐ役割を担う事業者です。
単独では小さな設備である、
- 蓄電池
- 空調設備
- EV(電気自動車)
- 自家発電設備
などを束ね、市場や系統から見ると「意味のある調整力・電力」として扱える形にするのが本質的な役割です。
アグリゲーターは制度上どこに整理されているのか
現在の電気事業法上、アグリゲーターという名前の独立した事業区分は設けられていません。これは制度が未整備というよりも、
- アグリゲーターが「設備を持つ主体」ではなく
- 「制御・運用の機能」を提供する存在
であるため、既存の事業区分の中に組み込まれて整理されている運用代行者というのが実態です。
制度上の整理パターン
アグリゲーターは、行っている業務内容によって主に次のいずれかの形で制度上位置づけられます。
特定卸供給事業者として整理されるケース
複数の設備を束ねて、「卸電力市場」「需給調整市場」などで電力や調整力を売買する場合、「まとめて供給する主体」として、卸側の事業区分に入ります。
小売電気事業者の一部門として動くケース
小売電気事業者が、「自社の需給バランス調整」「価格変動リスクの低減」を目的に、
蓄電池や需要家設備を制御する場合です。
この場合、制度上は小売電気事業者の中の一機能として扱われます。
発電事業者・蓄電池事業者の運用を受託するケース
アグリゲーター自身は設備を持たず、発電事業者や系統用蓄電池オーナーから、運転・制御・市場対応だけを請け負ういます。
この場合、制度上の主体はあくまで発電事業者や蓄電池事業者であり、アグリゲーターは前面に出ない裏方になります。
需要家から見ると、アグリゲーターは何者なのか
需要家目線で言い切ると、アグリゲーターは次のような存在です。
需要家の設備を、「自社のためだけの設備」から「系統や市場ともつながる設備」に変換する仲介役
需要家単独では、
- 市場に参加できない
- 系統に影響を与えられない
設備であっても、アグリゲーターを介すことで、
- 電力需給の調整
- 再エネの変動吸収
- 電力コストやリスクの低減
に関与する可能性が生まれます。
なぜ分かりにくいのか(補足)
アグリゲーターが分かりにくい最大の理由は、
- 発電事業者でもなく
- 小売事業者でもなく
- 送配電事業者でもない
「横断的な役割」を担っているからです。
そのため制度も新しい箱を作るのではなく、既存の箱に当てはめる整理になっています。
需要家向け一言(まとめ)
アグリゲーターは、需要家が直接触れることは少ないものの、電気料金や再エネ活用の裏側で重要な役割を果たす存在です。
「何の事業者か分からない」と感じた場合は、
設備を束ねて、外の世界(市場・系統)とつなぐ役割
と覚えておけば十分です。
需要家が特に誤解しやすいポイント

ここまで整理した内容を踏まえると、需要家が誤解しやすい点は次の3つに集約されます。
- 電力会社を変えると、電気の品質や停電対応が変わる思ってしまう
→ 実際には、電気を送っているのは送配電事業者です。 - 需要家の施設に太陽光や蓄電池を導入すると、電力会社が不要になると思ってしまう
→発電した電気で100%賄えれ購入は不要になりますが、多くの場合、系統・小売との関係は残ります。 - 再エネ電力を選ぶ、発電所と直接つながると思ってしまう
→実際には、卸・市場・小売業者を介した電力供給になります。
知らなくても使えますが、判断を誤りやすいポイントでもあります。
まとめ:需要家が電力を考えるときの整理軸
電力業界を理解するために、すべての制度や市場を覚える必要はありません。
需要家として重要なのは、
- 自分は誰と契約しているのか
- 価格やリスクは誰が引き受けているのか
- 変えられる部分と、変えられない部分はどこか
この3点です。これで一般小売電気事業者が一番身近な存在であることをご理解して頂けたと思います。電力は「見えない商品」だからこそ、裏側の構造を一度整理しておくことが、賢い選択につながります。